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【介護】エアーマット導入にあたっての注意点~転倒・介護者側の負担について~

理学療法士やケアマネージャーのすすめで、床ずれ対策に「エアーマットレス」変更の提案がありました。介護保険のきく範囲で提案頂いたことですし、プロが言うことだから…という事で、家族が介護用ベッドのマットレスを変更してしまった話をしようと思います。

結論から先に述べますと、被介護者は転倒、臀部を強打。その後、スタッフ間の責任のなすり付け合いの末、家族の不注意による事故として始末されました。

理学療法士であっても、実際の普段の暮らしや被介護者ご本人の全ての状態を把握している訳ではなく、自室で普段どのように過ごしているかまでは分からないことの方が多いかと思います。また、理学療法士にも専門があり、特に高齢者介護の知識と経験が豊富かどうかなど判断できません。
ケアマネージャーについても、言うまでもなく。前職「看護師」から転身するかたも多いケアマネですが、実際は自宅で家族の介護をした経験のある方は少数で、高齢者介護や療養病棟の経験のない方もいらっしゃいます。それぞれに得手・不得手がありますし、家族の手に負えなくなったら施設に入れてしまう…というのが大きな流れである以上、要介護者の生活状況の推移を最後まで見届けたことのある方は少ないのかもしれません。

ただ単に、要介護度があがったから、あるいは寝返りが難しくなったからという理由で、当事者の介護にエアーマットを安易に取り入れていいものでは無いと考えます。
何となく便利そう…というイメージで導入する前に、本当に今の介護状態で必要なのか考えてみましょう。被介護者の状態によっては、目を離すことができない介護ベット生活となる可能性もあります。

また、ときに介護者側の負担が大きくなるようなことさえありますので、今後の参考にしていただければ幸いです。


そもそも、エアーマットって?

介護用ベットのエアーマットは、寝たきりとなった被介護者の床ずれ予防など様々な機能が付いているものが増えています。体重(圧力)が1カ所に集中しないように分散させてくれたり、自動で体位を変えてくれる機能や、血流の滞りの無いように微振動を与える機能など様々。

その機能のおかげで、夜間の体位変換のために何度も起きることも少なくなり、利用次第で介護者の状態維持や管理がしやすくなります。

しかし、利便性だけに着目し、注意点に目がいかない(メリットしか興味がない)状態でエアーマットを安易に導入をすすめてくる点に不信感を抱きました。

介護保険制度により、簡単に介護用備品がレンタルで試せるがゆえに、新商品を次々に紹介してくる人もいます。
「新型の介護用備品を見てみたい」という介護従事者側の興味も根底にある場合や、「他の患者さんが快適そうだった」と他所の成功事例を異なる生活条件でも当てはめようとするようなこともあるでしょう。
(※報酬があるわけではありません。)

しっかりと、注意点まで想定して考えてくれる方の提案かどうかが大切だと感じます。

◆初めてエアーマットを使う際

かろうじて自発的に体位変換できている患者の場合、エアーマットの導入により力の入れ具合が難しくなります。(体重の圧が分散されるため、健常者でも不安定に感じ動きづらいです。)寝たきりの状態を加速することもあるので、導入時期の適切な判断が必要です。
薄いエアーマットの方が体圧分散効果の少ないので安定感もあるため、フワフワと浮く感覚に慣れない方でも試しやすいです。(意識があり、活動性のある方のマットレス選びの判断は難しい。)

空気をマットレスに送るチューブ(送風チューブ)のねじれ外れ、空気圧コントロール不良(機材の故障)、また最近では停電対策機能の付いたエアーマットレスもありますが、基本的に電動であることを忘れずに。
送風チューブがねじれた状態では空気が正常にマットレスに送られて来ませんし、チューブの存在で思わぬケガをする場合もあります。電源の入れ忘れや、空気圧コントロール不良の状態に気づかずに長時間放置してしまうと、それこそ褥瘡の芽が出来てしまいます。また、空気圧計算は自動化され、体重の入力だけでよい機種も多くなってきましたが、思わぬ拍子で設定が狂ってしまうことがあるので、こまめにチェックが必要です。

業者の定期点検も必要です。特に、故障ではないパターンのトラブルだと気付きづらい。故障ではなさそうなのに、以前よりもマットレスに空気が入りにくくなることもあり、備品の劣化や空気を取り込む部分の目詰まりなどは専門業者に点検をお願いしなければなりません。

等々…。

介護スタッフも説明を省きやすい点を挙げてみました。

特に、初めて被介護者がエアーマットを導入する際というのは、まだご本人が自発的に起き上がろうとしたり、ベッド上でも座位で過ごされるシーンも多々あるかと思われます。
そのような被介護者の場合、まず転倒するリスクがあると思っておいてください。


説明書にも「転倒注意」!!

一応、説明書や使用上の注意にも、「転倒に注意してご使用ください」と記載はあります。しかし、エアーマットで転倒!?なぜ??…と、なかなか想像できない方々もいらっしゃるようです。

介護用エアーマットを体験したことのある方が圧倒的に少ないですし、また、力が衰えつつあるある方が利用するという点を想像してみてください。

◆起き上がりづらい、座る姿勢を保てない

通常の場合、体重を1点(臀部)で支えるために、腕で状態を支えて、上体を起こします。それは、支点(臀部)力点(上体を起こそうとする手・腕)作用点(力を受けとる脚)の原理で考えれば、バランスが調和しているから上手く上体を起こすことができると言えます。
そして、しっかり固定された場所でなければ、力を効率的に加えることができません。

エアーマットの場合、体重が1点で固定されずに圧力が分散されてしまうので、支点(臀部)と力点(手・腕)の力が真っ直ぐに伝わらずに、グラつき不安定になってしまいます。

エアーマットの内部は空気です。
また、空気圧はパンパンに張った状態ではないので、体重をかけた部分が沈み込んでしまうため力を入れても安定しません。

それまでウレタンフォームのマットレスなどで、補助付きで起き上がれたり、座位(座った状態)を保てていたとしても、エアーマットに変えると身体を自身の力で支えることが難しくなる可能性があります。

ならば、ずっと寝させておけばいいじゃないか…と、そう考えるのは甘いです。
自身の身体が衰えつつあることをご本人が客観的に理解して行動に移せると思われますか?ダメと言っても、数十分後に覚えていますか?被介護者の中には、自分の身体が不自由なことすら忘れている方もいらっしゃいますし、足が動かなくてもお構いなし、予想外の行動力を発揮してしまうこともあり非常に危険です。

【写真←】体重が沈み込まないように、空気圧を上げてエアーマットを固くする機能もついています。

しかし、このコントローラーは介護者がベッド上でのケアを施す際に設定を切り替えたりするもので、被介護者の手の届く範囲には決して設置しないようになっているものです。通常は、被介護者のの足元辺りに設置されたり、ベッドの下に置くようなタイブの機種もあります。

エアーマットの空気圧を上げるハードモードにしなければ安定して座位を保つことも難しいのですが、患者ご本人は状況を判断するよりも、その瞬間に興味のある事柄へと突き進んでしまうでしょう。
僅かでも自発的に自身のカラダを動かせるような方が、不安定なエアーマットを使うとなると思わぬ事故を引き起こす可能性があります。

◆座位を保てずに滑り落ちる…

上にエアーマットの例を載せたように、内部のエアーバッグ(エアーセル)は横向きに敷き詰められているタイプのものが非常に多いです。(※上の写真を参照)

ハードモードにせず上体を起こせたとしても、座位を保てるような筋力はないことが多いでしょうし、さらに、非常に不安定なエアーマットの上では難しいでしょう。

まず、エアーマットの縁(エッジ部分)に体重をかけると、体圧分散できません。エッジ部分が完全に沈み込んでしまうため、エアーマットは〝滑り台〟のような角度が付いてしまいます。

臀部に体重をかけようと、上体をコントロールしようにも、上体を支えられるだけの腹筋~背筋はなく、踏み込みとどまる脚力もありません。
その結果〝太もも裏↓↓部分〟だけに体重がかかり沈み込んでしまうので、斜めに角度が付き、滑り落ちてしまいます。

滑り落ちてしまうことで、臀部を床に強打するだけでなく、その反動で介護ベッドのフレーム部分に頭を打ち付けてしまったり、ベッドガード(手すり)に身体の一部を挟んだまま全身の体重が加われば骨を折ってしまう可能性すらあります。

健常者でも、上体の姿勢を維持するのに腹筋~背筋でバランスを調整しなればならない難しいエアーマットですし、脚力なしで滑り落ちないようにするのは不可能です。ハードモード(空気圧を上げる機能)でも、完全に固くなるわけではないので、身体の状態に衰えのある被介護者への導入はよくよく熟考すべきと考えます。

完全に寝たきりの状態であって、自らの力で自発的に動くことがないのであれば、このような心配は少ないのかもしれません。
しかし、初めてエアーマットの導入を提案される際の被介護者は、わずかでも自発性のある状態や明確な意思をもって動きたがる方が多いのではないかと思われます。

いろんなエアーマットレスがある

患者ご本人が、わずかでも自発性があり、調子に波はあれど自身の力で上体を起こしたり、車椅子への移乗も協力的な方である場合は、座位でも過ごせるようなマットレス選びを第1に考えてあげられたら理想的ですね。
しかし、褥瘡の予防やその対策というのも大変重要な点であることも間違いありません。

もしも、スタッフに介護ベッドのマットレスを勧められ、自発性のある被介護者でお悩みの際は、ケアマネージャーと一緒に介護用品のカタログを見てみましょう。
介護保険の月額制レンタル可のもの~購入品まで様々な介護用品をみることができます。

【写真⇖⇖】エアーマットレスのエッジ部分が、座位を保てるようなスポンジで囲われています。
https://www.scrio.co.jp/fs/kaigo/4703
参考になるエアーマットレスとそのサイトを見つけたので、興味のある方は是非どうぞ。

ケアマネージャーだけでなく、いろんなスタッフにアドバイスをもらうようにすると、尚良しです。

車椅子の選び方などにも言えます。ご本人の状態以外にも、家の間取りも関係してくる部分もありますし、車椅子の備品にも様々な種類があります。患者ご本人だけでなく、介護家族にとっても快適な介護用品選びという視点が大切だと思います。


薬師瑠璃光如来©るりにょ

医療関係の仕事がメイン。 医薬品の製薬企業にも勤務。 北米の病院に研修いってました。 介護/生活/環境衛生/医療etc...

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