皆さん「またリコール!?」と、驚くというよりも呆れたような感情を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、今回注目するべきは、その規模の大きさだけではなく理由にあると感じました。
不具合が見つかり、リコールの届け出を出すこと自体は本来は悪いことではありません。むしろ、消費者の安全のために責任を全うしようとする姿勢でもあると思います。
国土交通省:リコールの届出について、SUBARUインプレッサ他(平成31年2月28日)
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003283.html
疑問の多いリコールでしたし、これはSUBARUに限らず、さらに自動車業界だけの問題でもなく、日常にある全ての電化製品・電気機器などにも生じ得ることではないかと感じ、調べてみようと思いました。
揮発するシリコーンガス?
リコールの届け出によると…
http://www.mlit.go.jp/common/001274797.pdf
http://www.mlit.go.jp/common/001274796.pdf
スイッチの部分にシリコーンガスが付着するとスイッチが動かなくなったり、その影響でブレーキランプが付かなくなる可能性もある。
ブレーキを踏んでもスイッチが認識しない、ブレーキを踏んだ状態と認識しなければエンジンがかからないことも出てくる…といった感じです。
〝接点方式が不適切なため…〟としつつも、『車内清掃用品や化粧品などから揮発するシリコーンガスの影響』という説明が腑に落ちませんでした。
車内で揮発するシリコーンガスなど想定していないはずがないんです。そもそも、車に使われている接着剤や防水、コーキング剤にも、耐熱性はあるにせよシリコーンは使われています…。
夏場の炎天下の下に車を置くと、車内は70℃を超えてしまうこともありますし、ここ数年の猛暑で80℃を超えるとも指摘されるようになってきました。そこまで高温に上がることを想定して耐熱シリコーンを採用していたとしても、シリコーンが電気系統に悪影響をもたらすことは広く知られていることから、車内でシリコーンが揮発する可能性も含めて設計されることは当然のことではないでしょうか。
車由来のシリコーン揮発を上回るほどの揮発性シリコーン(洗浄剤、または化粧品など)について。
もしかしたら、それはシリコーンガス以外の成分もあるのでは…という可能性と報道もふくめて、書いていきたいと思います。
※シリコンとシリコーンの違いについては割愛させていただきます。
※時と場合によって、シリコーン樹脂(シリコン樹脂)とも呼ばれたり様々な種類に分類されますが、総称としてはシリコーン。シリコンとシリコーンでは聞き間違いなどの可能性もあるため、シリコンとシリコン樹脂とで使い分けてる場合もありますよ。
シリコーンの電化製品への影響
シリコーンは、無機と有機の特性をあわせ持った(シロキサン結合でつながった)シリコーンポリマーです。個体や液体などさまざまですし、粘度や耐熱性なども用途に合わせて利用されます。
シリコーンの影響でガスファンヒーターが故障してしまうことは比較的広く知られていますが、これはどんな家電製品でも起こり得ること。また、電気で動くものならば、影響はゼロとは言い切れません。
原因は低分子シロキサン…
わずかに揮発したシリコーンガス(気体になった低分子シロキサン)が付着し、時間をかけて堆積すると、絶縁性の膜を作ってしまい接触不良を起こすことははずっと以前から知られていることでした。
低分子シロキサンは、敢えて言うとすれば、シリコーンの〝残りカス〟のようなもの(不純物ともまた少し違う…)。シリコーンポリマーの製造時に除去できなかった低分子量物質です。電気接点障害を起こす原因とされているので、本来は含まない方がよい電気・電子用途には『低分子シロキサン低減品』を採用しているはずです。
シリコーンガスが製品の内部に侵入してしまい故障するようなことがないように製造できればよいのですが、想像以上に身の回りの日用品にまでシリコーンが使われるようになっているという話。
特に、日用生活品レベルの商品に含まれるシリコーンの質には基準はありません。(※化粧品には別途基準はある)
利便性や使用感を追求するあまり、無意識のうちに身の回りの多くの日用品に含むようになり、低分子シロキサンの発生を考慮しなくてもよい商品が他の電化製品に悪影響をもたらしてしまった結果が今回のリコールとも言えます。
なぜか自宅の家電の製品寿命が短いなど繰り返されるようであれば、原因の1つとして考えなければなりません。家電メーカーが意図的に製品寿命を短くして買い替えサイクルを早めるよう促してる…などと陰謀論を説く方もいらっしゃいますが、まずは心当たりはないか考える方が先決だと思います。
何気ない日用品や化粧品に含まれる
シリコーンは、ノンシリコンシャンプーのブームから広く意識されるようになったので、なぜがシリコーンは美容に悪いものというイメージも作り出されてしまいました。
たしかにシリコーンは、吸い込むことにより呼吸器障害を起こす可能性もあります。シリコーンのみならず、さまざまな樹脂の吸引(防水スプレー・帯電防止グッズなど)で事故も多く起こっていますので、どんなものであっても適切に使用しなければなりません。
適切に使用してこそ、の利便性です。
日用品や化粧品に含まれるシリコーンは、柔軟性・感触性・伸展性・弾力性・撥水性・消泡性などなど様々な目的で添加、利用されています。そして、電気絶縁性もあるわけです。
髪の毛をコーティングしてツヤを出したり、指通りを良くしたり、しっとり感を出したり、摩擦などによるダメージか保護したり…。
肌の場合は、肌のキメや毛穴などの凹凸をぼかして滑らかに見せたり、汗による化粧崩れを防止したり、手触りを良くしたり…保湿・美容成分を肌に閉じ込めるためのコのような目的なども用途に合わせて様々な商品に使われています。
肌に直接使用したりするような化粧品などの分類であれば、成分表示に記載があるので確認することができます。しかし、表示名称から揮発性シリコンだと確認できるものもあれば(揮発性の環状シリコーンなど)、また、表示名称だけで低分子シロキサンの発生量まで判断できません。
でも、車内のような閉鎖的な空間であっても、それだけで接触不良が起こるでしょうか。車の車内でシリコーン含有のスプレー缶感を使用することさえなければ、化粧品などから発生するシリコーンガスくらい想定されていたはずです。
スプレー缶のシリコーン!
エアロゾルタイプ(スプレー缶)はシリコーンポリマーを空気中に放出するので、特に注意が必要です。ヘアスプレー、制汗スプレー、防水スプレーなどに含まれているシリコーン樹脂は、揮発性の高い有機溶剤に溶かしてあります。
そのような、シリコーン含有のスプレー缶を車内で撒くようなことをしたら、故障の原因になり得るでしょうね。また、シリコーンが入っていなくても、他の原因で電気接点障害が起こる可能性もあります。
電気接点障害の原因としてまず知られているのがシリコーンですが、それ以外にも様々な物質が原因になると報告もあり、有機溶剤、硫化水素やアンモニアなども接点障害を起こすと言われています。
本当にSUBARUだけの責任なの?
2019年3月1日にロイターから詳しい報道があり、そこから物議を醸すこととなりました。
https://jp.reuters.com/article/subaru-idJPKCN1QI3H6
REUTERS;ロイターによると、
〝整髪料や洗濯時に使う香りの強い柔軟剤、車内の清掃に使う薬剤などに含まれるシリコーンガスが揮発し、スイッチ部分に付着するとスイッチが動かなくなり、ブレーキランプがつかなくなる場合がある。ブレーキを踏んだことをスイッチが認識せず、エンジンが始動しないこともある。〟
とのこと。
事故が起こる前に、スバル社として過去最大となるリコールに踏み切ったことに「自動車なんだから当然だ!」という意見から、少し問題の捉え方が変わってきたようです。
この記事に対するコメントとして↴↴↴、
https://ceron.jp/url/jp.reuters.com/article/subaru-idJPKCN1QI3H6
『車が悪いの?柔軟剤や整髪料の成分を見直しては』
『これ、柔軟剤とかに含まれるガスが原因みたいなんだけど、それってスバルが負担するものなの??』
『日用品由来だと車以外も有り得るのでは』
『車だけの問題ではない。あらゆる機器に影響が出てくるよ。』
『これはたまたまスバルだけど他メーカーでも起こりうるんじゃないの?』
…などなど。
SUBARUの責任というよりも、先陣を切ってリコールに踏み切った姿勢を評価する声や、車だけの問題では済まないのでは、という意見も散見されるようになりました。
このような時、日本のマスコミは委縮してしまいます。
他のスポンサーを失いかねない部分は積極的に報じないので、海外の報道を見てみると興味深いです。
If you drive a Subaru, you may want to avoid wearing perfume or a sweater treated with fabric softener—they could prevent the engine from starting https://t.co/gttoxn3dki
— The Wall Street Journal (@WSJ) March 3, 2019
ツイート自体の文言については、記事クリックのために誇張された表現であることが多いので内容をしっかりと確認することが大切ですが…
こちらWSJのみならず、各報道は要点を的確に捉えているな、と日本との違いに驚きます。
国によって報告形態が違いますし、原因をはっきりさせたいUSの事情として、米内の自国産自動車産業を再び盛り上げたいという狙いもあるのかもしれません。ただ、US国内の報告件数は非常に少く発生頻度も稀なわりに、原因の詳細をしっかり掘り下げて報道しているようです。
(日本では、無料で修理してくれるならイイヤ~という消費者と、本件による損害の規模しか興味ない個人投資家が多いように思います。)
まず、車の内部で発生しているガスではなく、車ユーザーが使用する日用品由来であることが問題なんだ…という点が消費者に大きな衝撃をあたえました。
そして、シリコーンガスよりも、放出される他の化学物質のガスについて多く触れられています。
先のとおり、車の部品や内装からシリコーンが発生することなど既に想定されていますし、シリコーンが原因の接点障害は既に昔から知られているからだと考えられます。
特に、香料や柔軟剤からの揮発成分について指摘する内容が多いなという印象を受けます。
有機溶剤などによる接点障害…
シリコーンによる接触不良トラブルはよく知られていますが、他の原因として有機ガスなどの報告もされています。
香料も有機ガスです。特に、自然と消失してしまう食品の香りや天然アロマとは違い、人工香料の場合は長時間も空間を漂い続けます。
さらに、香料の効果を何週間も長期間持続させるための樹脂加工も、多くの商品に取り入れられるようになってしまいました。
香料や消臭成分そのもの自体も、有機ガスですよね。
また、香料や消臭成分を持続させるための樹脂は、尿素樹脂やウレタン樹脂、メラミン樹脂などであり、その構成成分も名称も特許を取得しているので、企業により「マイクロカプセル」と称したり「フレッシュカプセル」と記載したり様々です。
そのような樹脂も絶縁性が高く、香料の種類によっては金属腐食やプラスチックを溶かしてしまう性質を持ちます。
目に見えないもの(ガス・気体)なだけに、なかなか実生活とは結びつけて考えにくい問題です。
今回のSUBARU車リコールは、自動車のみならず、電化製品やオーディオ機器、スイッチやボタンのあるようなもの、接点のある全ての家電に対して悪影響が懸念される問題を秘めています。
洗剤や柔軟剤をノンシリコン製品に変えたとしても、それで解決したとは考えにくいですし、昨日or今日などと直近で起こる問題でもありません。日に日に時間をかけて蝕んでいくものは、人間やペットの健康だけでなく、身の回りの電化製品にも及んできています。
そもそも柔軟剤には、消泡剤としてシリコーンが含まれてているものが大半です。
ホコリ対策(静電気防止)のため、あるいは香りを付けるために、部屋中にスプレーをしたり壁を柔軟剤で拭いたりするような、用途外使用までメディアで宣伝されていることもあります。
電化製品の破損はもちろんのこと、異常発熱による出火の可能性も含めて、消費者自身が今一度考え直すべきことではないかと感じます。
また、普段の生活で、シリコーンや有機ガス、その他様々な樹脂を日常的に吸い込む動物の健康への影響も未だ不明です。
これまで、シリコーンによる接点障害は低分子シロキサンが主な原因とされてきましたが、シリコーンポリマーを屋内にスプレーする新たな習慣にも、香料や消臭剤が充満する空間にも耐える得る電化製品の開発が、消費者の求めるところとなって行くのでしょうか。
また、今回はSUBARUがリコールをの届け出出しましたが、本当にSUBARUだけの技術的な問題なのかどうか、今後は他のメーカーの動きを含めて見守っていきたいと思います。