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ノロパンチ?ノロアウト?アルコール消毒剤の効果は?|ノンエンベロープウイルスに対してどう使うか

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「ノロ〇〇〇」という商品名で店頭に並んでいるアルコール消毒スプレーを目にすると、本当にノロウイルスに効果はあるの?と疑問に思う方も少なくないでしょう。

お子様の学校でノロウイルスが流行っている時期や、または、実際ご家族がノロウイルス感染症にかかって消化器症状が出てしまった場合とても気になる商品だと思います。日常的なノロウイルス予防に使うのか、あるいは感染者の吐しゃ物・排泄物の対処に使うのか、判断に困ります。

一般的には、ご家庭などでのノロウイルス対策には次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系消毒剤が用いられるのが常識とされていますが、塩素系ならば全ての消毒剤に十分な効果があるわけではなく、次亜塩素酸水や亜塩素酸水、亜塩素酸ナトリウム(二酸化塩素)など様々な商品が『除菌』という定義の曖昧なものとしてに売られるようになってきました。

今回は、アルコール消毒剤のノンエンベロープウイルスに対する効果はどうなのか、そしてその有効な使い方について調べてみようと思いました。
厚生労働省が、次亜塩素酸ナトリウムを推奨している点も含めて、賢く使い分けできるようにしたいですね。

消毒剤として代表的なエタノールは、一般的にはエンベロープのないノロウイルスなど(ノンエンベロープウイルス)には効果が不十分とされていますが、最近、エタノールに加えて別の成分を添加して、効果を高めたアルコール系消毒剤が多く市販されるようになってきました。




アルコールには、ウイルスのエンベロープ(エンベロープありウイルス)や細菌の細胞膜などのような脂質を溶かす作用があり、エンベロープのないタイプのウイルス(ノンエンベロープウイルス)には効果はあまり無いとされています。
しかし、アルコールには、脂質の膜を溶かすだけでなく、タンパク質を変性させる作用もあり、医療機関などではノンエンベロープタイプのウイルスにも有効なタイプのアルコール消毒剤も使われています。

そもそも、ノンエンベロープウイルスって?

代表的なものとしては、ノロウイルスロタウイルスポリオウイルスなどのエンベロープ(外側の脂質性の二重膜)を持たないウイルスです。

エンベロープはアルコール消毒剤で壊れやすいので、エンベロープにダメージを負わせてれば失活しやすいのですが、エンベロープがないウイルスの場合一般的にアルコール消毒剤は効きにくいと言われていますし、にも強いことで知られています。
(☞インフルエンザウイルス等々のエンベロープのあるウイルスは、エンベロープにダメージを与えられれば失活するのでアルコール消毒剤でも効果が得やすい…という意味。)

ノンエンベロープウイルスにも効果があるとされているアルコール消毒剤は多々ありますが、ここでは、通常ドラッグストアなど店頭でも良く見かける商品のホームページをから使わせてもらおうと思います。

洗面所に設置するタイプや、手をかざすと自動的に噴射されるタイプなど、ほんとうに様々な会社から商品が販売されるようになってきました。
そのアルコール消毒剤というのは、液性を酸性に傾けたり、別の成分を添加することで、ノンエンベロープウイルスの不活性化を高めたエタノール系消毒剤のことで、会社によっては『酸性アルコール消毒剤』として販売されています。

上記の商品ホームページの「試験による検証データ」を見ても、被検ウイルスは「ウイルスA.B.C」との記載だけなので、これでノロウイルスに効果あるなんてわからない!!と、まず思うところから始まるでしょう。
今、現状の科学では、ヒトに感染するノロウイルスの人工培養ができていないので、実際ノロウイルスに効果があるかどうかを証明することは不可能なのです。

ネコカリシウイルスを代替ウイルスに

残念ながら、まだヒトのノロウイルスの人工培養には成功していません。

そのため、ヒトのノロウイルスと近縁のノンエンベロープウイルスである〝ネコカリシウイルス〟が実験によく使われています。
また、最近では、マウスのノロウイルスの培養が可能になったので、〝マウスノロウイルス〟追加で実験が行われることも増えてきました。

ウイルスならなんでも良いという訳ではないですし、よりノンエンベロープウイルスのなかでも、よりヒトのノロウイルスに近い種類での実験をするのが理想です。

実は、ホームページ上では被験ウイルスの記載がなかったので問い合わせたところ、快くお答え頂きました。
さらに実験データまで提示し、素朴な疑問にまで回答して頂いたので非常に誠意を感じました。

この3種類のウイルスはノンエンベロープウイルスで、
ウイルスA:ネコカリシウイルス
ウイルスB:ロタウイルス
ウイルスC:マウスノロウイルス
それぞれ、99.9%以上のウイルス除去に要した時間を調べた結果です。

そのため、ホームページ上では『ウイルス除去時間【60秒以内】』という表現になっているわけなのですね。ご回答のお陰で少し疑問が解けました。

上記で挙げたように、ヒトのノロウイルスにも近いネコカリシウイルスでも実験されていますし、さらに、ヒトに近いマウスノロウイルスでの培養実験もされています。

こちらの製薬会社の酸性アルコール消毒剤でネコカリシウイルスを99.9%除去するのに「1分間」を要し、比較に用いた2製品(他社の酸性アルコール消毒剤および日局消毒用エタノール)よりもネコカリシウイルス除去する効果が認められたということでした。

予防的に、あるいは感染の拡大を防ぐためには、使い方次第で有効なのではと考えられます。
というのも、流行期に毎日のように次亜塩素酸ナトリウムでノロウイルスやロタウイルスなどの対策をするにはあまりに非現実的ですし、次亜塩素酸ナトリウムの代わりに熱湯で煮沸する方法もありますが、予防的にそこまでするべきかと考えると悩みますよね。

特に、次亜塩素酸ナトリウムは「消毒剤」であると同時に、衣類の「漂白剤」でもあります。色物衣類に使えば、漂白されてしまいますので、シーズン中の予防とはいえ、そこまで頻繁には使いづらいものです。そして、金属を腐食させてしまう点もあり、いつでもなんどでもと使い勝手のよいものではありませんよね。

また、食品添加物レベルの成分を使用している点も、用途の幅が広がります。特に、台所回りで頻繁に塩素系漂白剤を使いたくはないと抵抗を感じる方には、予防的にノロウイルスなどの対策に利用しやすい商品です。
揮発さえしてしまえば、赤ちゃんやペットがいる家庭でも安心して使うことができますね。

巷には殺菌成分すら不明の除菌スプレーが数多く出回っていて、インフルエンザやノロウイルスの流行期に闇雲に使いたがる人も増えてきます。
しかし、除菌効果や抗ウイルス効果については、販売会社にとって都合のよい細菌を例に効果を謳っただけのことです。フ〇ブリーズをしてノロウイルスの除去に効果があるといえるのでしょうか?
効果も成分もよく分からない商品を撒くのは気分の問題であって、そのような除菌スプレーとは一線を画して考えるべきだと考えます。

さて、これで終わりではありません。
続けます。


次亜塩素酸ナトリウムとの使い分けは?

とはいえ、実際のところ、しっかりと手洗いをしてノロウイルスを洗い流す(取り除く=除菌)が予防の最も有効な方法と言われていますし、厚生労働省ホームページではノロウイルス感染時の対処法として熱水・高温消毒や、やはり次亜塩素酸ナトリウムを使用した塩素消毒が推奨されています。

手洗いによって、手指の付着しているノロウイルスを減らすことは、想像している以上に大切なことですし、どんな殺菌成分が入っている石けんやハンドソープでも、それ自体が「殺菌」という効果がないとして2016年に禁止された薬用石鹸の殺菌成分すらあります。
予防として最たる有効な方法は、手指に付着しているノロウイルスを減らすために洗い流すことです。

厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」参照↴↴
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html

また、厚生労働省の国立医薬品食品研究所による「平成27年ノロウイルスによる調査報告書」、塩素系消毒剤とアルコール消毒剤のノロウイルスの不活化の有効性について検討した調査報告書からも考えてみたいと思います。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000125854.pdf

この調査及び実験は、ノロウイルス代替のネコカリシウイルスを用いて行われた実験で、塩素系消毒剤にも様々な種類があり、またアルコール消毒剤にもノンエンベロープウイルスに有効とされる消毒剤も多々出回っていることから調査した内容となっています。

こちらの試験スタイルの重要な点は、「有機物を負荷した条件」でも実験をしていることです。ノロウイルスに感染した患者の実際を鑑みた場合、吐しゃ物・排泄物などの有機物混じりの嘔吐物・糞便の処理をする場合を想定しなければなりませんよね。

【図↖】アルコール系消毒剤11種の結果表です。詳しくご覧になりたい場合は、リンク先よりご確認ください。

詳細は省き、右側の『評価』の欄より見て頂こうと思います。
尚、
評価A:4log10以上の減少(十分な効果あり)
評価B:2log10以上でA未満の減少(効果あり)
評価C:B未満(効果なし)

この実験によると、≪有機物の負荷剤なし≫ が11種中7種でウイルスの感染価が減少し、効果あり(B)、とされた。
≪有機物の負荷剤あり≫ は、3種のアルコール消毒剤で感染価が減少、だたし、ウイルス不活化に時間がかかる傾向があると認められた。

この結果から分かるのは(省いて簡潔に言えば)、「有機物が混じると効果が弱くなる」ということです。
つまり、吐しゃ物などからの二次感染を抑えるのには、ノンエンベロープウイルス不活化アルコール消毒剤として売られていても、効果が不十分な場合も有りうるということ。

ノンエンベロープウイルスにも効果があるとされるアルコール消毒剤の使い方について、少しイメージは沸いてきたてしょうか…

例えば、感染して下痢や嘔吐などの症状がある場合、その処理には次亜塩素酸ナトリウムを第一に使用することや、ご家族にノロウイルス感染者がいる場合にも拭き掃除などに次亜塩素酸ナトリウムを使うなどなど。(次亜塩素酸ナトリウムによる実験の結果も載っていますので、当調査報告書よりご確認ください。)
ノンエンベロープ不活化アルコール消毒剤は、流行シーズン中の予防の一つとして有効に活用していくことが良いと考えられます。


スプレー噴射式に注意!

これは、塩素系であろうと何であろうと共通して言えることなのですが、感染者の吐しゃ物などにスプレーをするとその勢いで感染源となるウイルスが舞い上がってしまい二次感染のリスクが上がってしまいます。
市販で売られているものの多くは利便性を追求してかスプレーノズル式のタイプのものが多いように感じます。

スプレー式で散布する場合、ウイルスをさらに広範囲に撒き散らしてしまうおそれがあり、お子さんを預かるような保育園など施設では注意徹底されていることかと存じます。もしご存知なく、これまで嘔吐物・糞便処理に噴射スプレー式で薬剤散布をされていた場合、管理者と話し合いのうえ再考することをおすすめ致します。

ただし、予防については利便性も重要な点でもあるので、頻繁に使用しやすいことが優先されると思われます。予防に関しては、ご家庭で使いやすいもの、ご家族が安心して使えるものを選べればよいのではないでしょうか。

厚生労働省のホームページより

ノンエンベロープウイルス不活化にも有効なアルコール系消毒剤も多くありますが、やはり感染後の拡大を抑えるには今のところ厚生労働省でも推奨されている方法を取るべきと考えられます

「平成27年ノロウイルスによる調査報告書」からもお分かり頂けるように、ご家庭でも身近な次亜塩素酸ナトリウムによるネコカリシウイルスに不活化は有効なものでした。さらに、有機物による負荷剤を添加した条件についても効果が期待できるものと確認できます。

厚生労働省によると、『85℃で1分以上の煮沸消毒』と『塩素消毒液による消毒』が有効とされています。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000182906.pdf

ご家庭でもできる塩素消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使えますが、その使用に当っては『濃度』が重要となってきますので、こちらの図やリンクをご確認ください。

濃度が高ければ高いほど、浸す時間が長ければ長いほど効果は高くなりますが、脱色や金属の腐食などの作用もあるので注意してください。

ご家庭で身近なキッチンハイターやキッチンブリーチは次亜塩素酸ナトリウム5~6%です。(製造時は6%で、高温や日の当たり具合で分解していきます。)また、ミルトンは1%濃度の商品ですので、目安としてお考えください。

今回は、ノンエンベロープウイルスにも効果のあるアルコール消毒薬について資料も挙げながら紹介させていただきました。もし、使い分けに困っている方のお役に立てることができれば幸いです。

また、この際、流行の除菌・消臭スプレーについても改めてお考え直しいただく機会になればと思います。成分すら不明なスプレーなのに『除菌』という定義が曖昧な謳い文句で、宣伝に熱を上げている商品が多すぎではないでしょうか。


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