2018年7月13日、NHK東北の10分ニュースにて〝香りで苦しむ「化学物質過敏症」〟というタイトルで報道がありました。
全国放送では、NHKですら企業側に配慮した番組編成となることが多々あり、地方局の方が患者の現状に向き合った充実した内容になることはありません。
全国放送では、触れることが難しい内容なのかもしれませんが、今回の報道された推計患者数に驚愕した方も多いと思われます。
NHK 東北 NEWS WEB〔香りで苦しむ「化学物質過敏症」:https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20180713…☜〕
これまでにも「化学物質過敏症」について触れる番組放送はいくつかありましたが、「香りに不寛容だ」「気の持ちようだ」とあたかも心理的な問題であるかのように受け止められる構成となっていました。
2009年に正式に病名登録がされましたが、未だに非科学的なデマだと思い込んでいる方々も多くいらっしゃるかと思われます。
化学的・医学的に掘り下げて着目されることはなく、香料協会の影響を強く感じる内容ばかりでしたが、一部地方局では地道に患者の現実について報道が続けられてきました。
2013年「全国で100万人を超す」と新聞報道
2009年に病名登録された時点で、厚生省は正式な疾患として問題視していたということになります。しかし、その後も問題の根本を規制するどころか、新規合成化学物質の安全性を検討する前に次々に商品化され続けました。
一般消費者にとってみれば、そんな危険な成分が入っているはずがないと思うのは至極当然のことです。しかし、洗剤・柔軟剤・アロマオイル・消臭剤・香水・除菌スプレー・芳香剤・整髪スプレーなど日用雑貨類の成分の全容は、国ですら知る術はありません。
〝医薬品の方が規制されるくらい強い作用があるんでしょ?〟と思うでしょうが、医薬品は副作用から薬物代謝・解毒、妊婦や小児に対する影響をしっかり検討してますよね。未知の新規合成化学物質を取り込み蓄積されつづけ、慢性中毒アレルギーとして発症してしまう健康な方までも増えてしまったというのが本筋です。
既往歴や他のアレルギー歴のあるような方のみの問題では決してなく、いつ何時、誰に急に発症するか分からず、また一度発症すると完治は難しい慢性疾患となります。
厚生省も環境省も把握できない合成成分が、企業の独自基準だけで一方的に安全であるとされ、そうと信じて使い続けてきた消費者が発症してきているのです。安全性が認められないまま、企業の商品開発競争に消費者が巻き込まれている状況は、そう簡単には収束しないと考えられます。
そして、今回の報道から明らかになったのが、全国の推計患者数が約700万人であるとのこと。これには大変驚かされました。
日本人の約18人に1人…
総務省によると、最新の平成30年6月1日現在(概算値)の総人口は1億2652万人、いわずもがな減少傾向にあります。そのうち、推計される700万人の潜在的な化学物質過敏症の患者は、総人口の5.53%の割合。
日本人の約18人に1人の割合で化学物質過敏症の患者がいる、という計算になります。
身近にそんな人いないよ…そう感じても仕方がありません。ご本人は、我慢するよう強要される場合が多く、さらに化学物質過敏症であっても診断できる病院は極わずかしかありません。
そういった背景から、診断されたとしても周囲の理解を得ることは難しく、法整備も全くの皆無であり孤立してしまう、という悪循環に陥ります。
このまま、化学物質過敏症患者の急増から、目を背け続けることはできません。
アメリカでは10年間に3倍以上…
JOEM〔Journal of Occupational and Environmental Medicine〕2018年3月誌に掲載された情報を一部紹介。
2016年アメリカ成人(n=1137)に対する調査。アメリカ全人口の12.8%が化学物質過敏症の診断があり(MCS-Diag)、また、25.9%が何かしらの化学物質に敏感であると自覚がある(ChemSens)というレポートです。
後者ChemSensは、self-reported chemical sensitivityと書かれており、『他の人と比べて、あなた自身は、家庭の掃除用品・塗料・香料・洗剤・殺虫剤などのような化学物質に、日常から敏感に感じたりアレルギーがあると思いますか?』と確かめた、とあります。
そして、結論にて、MCS-DiagとChemSensの増加率についても言及されています。
アメリカ国内で過去に行われた2002~2003年、2005~2006年の調査と比較し、2016年の調査結果の3つから、
化学物質過敏症の診断あり(MCS-Diag)が〔2.5%、3.9%から12.8%〕に増え、10年で300%を超える増加率、
化学物質に敏感であると自覚がある人(ChemSens)も〔11.1%、11.6%から25.9%〕と増え、10年で200%を超える増加率であるとまとめています。
このことから、Fragrance-feeポリシーを通して、香り付き製品の暴露を減らすことが、健康への悪影響を減らす重要な方策でしょう、と最後に結んでいます。
Steinemann, Anne. National Prevalence and Effect of Multiple Chemical Sensitivities. Journal of Occupational and Environmental Medicine. March 2018-60(3):e152-e156, doi:10.1097.
Caress S, Steinemann A. National prevalence of asthma and chemical hypersensitivity: an examination ofpotential overlap. J Occup Environ Med 2005; 47:518-522.
Caress S, Steinemann A. Prevalence of fragrance sensitivity in the American population. J Environ Health 2009; 71:46-50.
たった5年で、100万人から700万人に?
上記のアメリカの結果を安易に並べて比較することはできません。
専門医が圧倒的に少ない日本で、香り付き製品の規制に国は全く動こうともしない、そして、受動喫煙による悪影響にも無頓着な国では大気汚染による健康被害という意識が低い文化的な背景が未だに根強くあります。
国民の健康よりも、企業の利益、そして税収確保が優先されてしまう国であり、他人が吸う空気を汚してはならない…という生存権として当然のことであっても歪められてしまいます。
アメリカでは、2010年代に入り香り付き製品の使用に関して規制する動きもあり、健康への意識が変わりました。それでも、10年で化学物質や薬剤に対して不耐性をもち過敏状態を示す割合が増えています。
日本では、個々の製品あるいは個別の成分との因果関係を証明し、化学物質過敏症に関連があると認められなければ規制はされません。
推計とはいえ、たった5年で爆発的に増えている潜在的な患者の数を考えると、10年後には単純計算14倍に…とは考えづらい状況ではないでしょうか。
国による受動喫煙対策にも共通していえることですが、次から次に新しい商品(新しい合成化学物質)を世に送りだし何十年もかけて因果関係を証明しようにも、利権が絡み規制が進展せず、その隙に新しい媒体(加熱式たばこ等々)に切り替えをすすめて規制を逃れるという手法を繰り広げていることは既に明明白白。
さらに、日用雑貨品は成分表示義務がなく、国ですら把握できない状態です。まず全成分の公開が先立ち、その後の調査となりますが、時間をかけて調査しても結局は他の新規合成物質に切り替わります。受動喫煙対策よりも法規制が難航するのではないでしょうか。
例えるならば、脱法ドラッグ(と呼ばれていた頃の)開発と摘発のイタチごっこです。2013年以降は、法律を一部改正することで幅広く対応できるようになりました。このことからも、まずは企業にとっては好都合ともいえる法律上の抜け穴をどうするかが近々の課題であります。
◆日本では「香害」という言葉が広がりを見せていますが、本トピックでいうところのChemSens※何かしらの化学物質に敏感であると自覚しているグループに該当するとも考えられます。
ご一読ください↴↴↴
◆また、「受動喫煙」からも「化学物質過敏症」を発症することは、まだ余り知られていないのではと感じています。〝受動喫煙症〟も化学物質過敏症に移行します。
環境たばこ煙も有害な化学物質を含み、目に見えない蒸気はエアロゾル化したガス状物質です。
ご確認ください↴↴↴
今後〝より身近な病気〟になる
最後に、番組内で解説していた専門医の話を記載しておきます…
発症のメカニズムはよく分からない
分かっていることは、化学物質がその人の耐えうる力(蓄積量)を超すと「化学物質過敏症」になってしまう
室内空気でも3000種類以上の化学物質があると言われている時代
食品添加物を入れたら、さらにどれくらいになるか分かりません
だから、誰でもなる可能性のある病気
北里大学名誉教授 現そよ風クリニック院長 宮田幹夫 医師
技術・文明が進めば、化学も医学もすべてのものが進歩します。薬や農薬、食品添加物なども同じように。しかし、効果がよくなる、よく効くようになるということは、何かしらの副作用が伴うことを理解して生活に取り入れなければなりません。
最初から副作用が分かっているものなら、少しは安心です。因果関係がある程度わかり、対処の方法を検討することが可能だからです。
得体の知れない化学物質を安易に取り入れること、漫然と使い続けることは避け、必要最低限にするようにしましょう。