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誤嚥性肺炎|食事を食べたがる患者~「とりあえず禁食」から看取り問題としても考える~

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誤嚥性肺炎という診断をされると、まず治療方針として示されるのは「絶食」でした。以前は、昔からの慣習のようなものが引き継がれてきた部分が多くありますが、ここ数年で考え方が大きく変わりつつあります。

まだ、昔からの治療方針に固執してしまい、絶食療法が絶対!として頑なに閉ざしてしまう医療者や、病院方針として責任や業務の煩雑化という課題など複雑な問題も絡むため、大きく変わることは難しいかと思われます。

ただし、禁食期間が短ければ短い程その後の予後が良い(回復の見込みが高い)という認識は、その経験から誰しも感じている部分でもあるんです。(だた、経験の少ないこと、自信のないことは、積極的に方針を劇的に変えるということは難しいですよね。人の命に係わる問題なので…)

高齢化が進み、ここ最近で看取りの話もよく取り上げられるようになってきており、とくに高齢肺炎は避けては通れないものなので議論も活発です。

高齢になれば、誤嚥性肺炎のみならず他様々な肺炎の可能性も含めて付きまといますし、肺炎予防の対策方法と選択肢も豊富になってきました。介護サービスでの誤嚥予防の体操なども当然のように、必要な方には提案されるようになっていますよね。




70代という、まだまだ老後はこれからという方が、たった1度の誤嚥性肺炎で回復ならずということもあれば、逆に、100歳超で誤嚥性肺炎を繰り返しても尚また元気にご自分の生活に戻られる方もいらっしゃいます。
その違いは様々な条件が重なっていると考えるにしても、本人が絶食療法に耐えられず、『最期でいいからご飯を食べさせてくれ』という意思をもっていたり、その気持ちを受けて、患者家族がどうにかしてあげたいと主治医に相談することは決して珍しいことではありません。

さらに申し上げれば、禁食により肺炎から回復を見せたとしても、仮に胃ろう造設をして対策をしたとしても、ご自分の唾液も上手に飲み下すことが困難になってしまったり、胃液の逆流の誤嚥などは解決できず、予後のコントロールが難しくなるだけの可能性もあります。
「とりあえず禁食」はやめよう…と言われつつも、まだ一歩踏み出せない医療者もいるのではと想像できます。

患者ご本人がどのような最期を迎えたいのかという問題と、
〝イマそのトキ〟の治療に専念しようとする医療者側の問題と、
中長期的な視点での患者の予後を考えた場合などで、折り合いを付けるのには複雑な部分であるのは間違いありませんよね。

特に高齢誤嚥性肺炎の場合、治ることと、退院できることとは別の問題となる傾向強くありますし、最終的に患者が望む場所(自宅など)に帰れるかどうかには相当なギャップがあります。

病院側からの「とりあえず禁食」に対して何かしらの疑問を抱いたり、何かしらの方法を模索しようとした方がこちらを訪れて読んで頂いているのだろうと思いますので、お役に立てる情報があれば幸いです。
主治医はもちろんその他コメディカルの方々と話し合う材料に、そして、ご家族で考えを整理するための数ある情報の一部分として目をとして頂ければ嬉しいです。

嚥下機能は、食べなければ悪くなる

誤嚥は誰でも起こしうることであって、その嚥下機能の障害は加齢だけが原因ではありません。たしかに、誤嚥が体調の悪化につながる可能性については否定できませんが、栄養の良い状態を維持できれば回復も早いですし、実は健康な非高齢者であっても日常的に誤嚥は起こしうることであって、気管に飲食物が入り込むことは別に珍しくないことです。
そして、肺炎は誤嚥によって起こすのではなく、細菌などの繁殖で起こるのです。

たまたま肺炎に至り、嚥下機能検査の末に〝誤嚥〟が認められるというだけのことであって、「肺炎の治療」と「嚥下機能障害」は分けて平行して考えてみよう~という話です。

肺炎は、ガイドラインなどに基づいて適切な抗菌薬で治療。しかし、強い抗菌でなくても、患者の栄養状態さえよければ少し弱めの抗菌薬を選択しても、予後に差はないとされました。
「低栄養状態が患者の肺炎リスクとなる」「栄養管理は肺炎の回復に有用」そんな当然のことは、医療者でなくとも何となく想像できることなどですが、ここで大切なことは「肺炎の治療」と「嚥下機能障害」についてを平行して考えなければならないということではないでしょうか。
http://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/1050.pdf

禁食により、唾液の分泌が悪くなり口腔内衛生も悪化、さらに肺炎だけでなく他の上気道感染のリスクも上がる。そんなことは当然、頭では分かっているんでしょうけれども、「とりあえず禁食」の慣習から離れるにはもう少し時間がかかるのかもしれません。


禁食期間は短いほうが良い

とりあえず、もう少し熱が下がるまで…
とりあえず、抗菌薬の投与が終了してから様子をみて…
とりあえず、言語聴覚士が足りないので…
とりあえず、リハビリの計画から立てましょう…

「禁食期間は短いほうが良い」と知っていたとしても、とりあえず~の慎重な姿勢の繰り返しで、先延ばし先延ばしになってしまうのは、禁食指示解除の明白な基準がなく経験まだも浅いからということもあるでしょう。
誤嚥を繰り返して回復が遅くなることを懸念し、さらに窒息するリスクもあると考え、先延ばし先延ばしになってしまいます。そのような昔からの風習で積み重ねられてきたので、これまでは疑いを持つことがあっても異議を唱えることは難しかったのかもしれませんね。

2015年の報告、Clin Nutr. 2015 Oct 9. pii: S0261-5614(15)00245-9.[Epub ahead of print] より…
肺炎そのものの治療成績は向上しているが、高齢誤嚥性肺炎などは治ったとしても退院に至らない患者が増えている現状に対して、一石を投じた報告。禁食期間の延長とともに、嚥下機能がどんどん低下していっていると気付いた看護師や家族の話がきっかけとなったものでした。
≪熊本県玉名地域保健医療センター摂食嚥下栄養療法科医師≫

「とりあえず禁煙」群は、特に治療期間を有意に延長させるという結果となり、嚥下機能を有意に低下させることが示されました。

条件や背景のバラツキに関して、疑問に思う方もおられるかと思われます。しかし、〝誤嚥性肺炎ならば考えずして当然のこと絶食指示のみ〟とされていたかのような歴史に一石を投じるものとなったことは間違いありませんよね。

ただし、最初から重度の嚥下障害のある患者は除外対象にしています。
そこまで軽度な事例だけを抽出した偏りのあり厳しいものでもないとも思いますし、これまで自力で経口摂取が可能だった方々を対象として考えるのであれば行き過ぎた除外条件ではないのではないでしょうか。

これまでの医療者側が課題としてきたことは、胃ろうや経鼻経管栄養で栄養状態を維持していたとしても、嚥下機能の低下は補えないということでしたからね。

嚥下機能を使わない期間が長ければ長いほど、嚥下機能の予後が悪くなる可能性について。

肺炎だけの治療成績を上げることはできるとしても嚥下機能の障害が深刻化するのであれば、高齢誤嚥性肺炎患者の本来の目標『できるだけ発症前の生活に戻ること』は遠のいてしまう可能性があります。
その点にたどり着いたことは、高齢者の看取り医療の考え方も少し変わってくると思うのです。

もし、ご本人が食事を経口から摂取したいと強く望み、ご健在だった頃に経管栄養などを嫌がっていたことなど、ご家族にしか知りえないことですしね。

「最期でいいから、ご飯を食べたい」と望まれたら

もし仮に、患者ご本人の強い意志があるのなら、ご家族はきっと望みを叶えてあげたいと思うでしょう。

肺炎そのものが良くなったとしても、その後の予後が悪くなる可能性も含めて判断するとしたならば、「最後でいいからご飯を食べたい」という希望を叶えてあげてる選択肢もあるわけです。

SpO2の管理しながら少しずつ時間をかけて…病院側は嫌がるかもしれません、酷い時には経営や方針を理由に転院までチラつかせる方もいるなんてことも無いとも限りません。
(そんな病院あってはならないので、敢えて書いておきますね。)

ご本人が好きなジュースなどあればスポンジに含ませて与えてみたり、その程度のことくらい看護師さんに協力してもらってもいいのではないでしょうか。
ゼリーやプリンだけで嚥下機能を評価する方針が一般的かと思われますが、口腔内や咽頭部の流動的な動作に遅れがある場合には、舌上を滑り落ちていくスピードに反応できないことなどもあります。様々な粘度のトロミ色をご家庭で用意して、看護師の方の管理下の元で試してみてもいいですよね。

大切なことは、病院に全てを投げないこと。
(希望を伝えるだけ伝え、そのリスクも労力も何も取らないことは、どんなシーンであっても上手く事は運びませんし、無責任です。)

最終的には家族が判断すべきことですが、ご本人の希望と、ご家族の状況とのバランスを考えて、判断していきたいですね。
それが、看取り医療の一環だと考えます。

延命治療|心肺蘇生術が行われないよう拒否する同意書

以上、
「とりあえず絶食指示」の高齢誤嚥性肺炎は予後不良となる~から、まとめてみました。
Maeda K, Koga T, Akagi J, et al. Tentative nil per os leads to poor outcomes in older adults with aspiration pneumonia. Clin Nutr 2015, Oct.9 [Epub ahead of print]
今後、様々な因子・バラツキなども排除した形で議論が発展していくといいですね。

誤嚥性肺炎を繰り返されている方も多くいらっしゃるので、回復力のあるうちにケアマネさんや訪問医、訪問看護の方に意見をお伺いしてみるもの良いと思います。

最期まで、目を通して頂きありがとうございました。

ご家族皆様とも、健やかな日々を過ごせますように。


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